はじめに
効率的なデベロッパー・ワークフローは、高品質なゲーム体験を生み出すために不可欠です。本記事では、Unreal Engine 5.4で導入された最新のデベロッパー効率化技術を探り、開発プロセスの効率化に役立つ方法について説明します。
Unreal 5.4の機能を活用したデベロッパー効率の向上
Unreal Engine 5.4のアップデートでは、データ同期の高速化、ビルド/クック/デプロイの所要時間の短縮、ターゲット環境でのイテレーション効率の向上の3つの重要領域に焦点が当てられています。これらの改善は、チームの生産性を高め、より高速なイテレーションサイクルを実現するよう設計されています。
中核となる要素の1つがDerived Data Cache (DDC)で、ビルド時のデータを集約するためのリポジトリーとして機能します。Unreal 5.4では、Unreal Zen ServerというサーバーベースのDDCソリューションが導入され、特に遠隔地や分散チームにとって、効率的なデータ管理と共有を実現します。
さらに、ワークフローの最適化を進めるため、Unreal 5.4ではUnreal Cloud DDCという、クラウドベースのDDCソリューションも導入されました。これにより、チーム全体で一貫したデータアクセスが可能となり、開発プロセスの効率化に貢献します。
クッキングとコンパイルのワークフローの最適化
ゲームアセットをデプロイ用にパッケージ化するプロセスであるクッキングも、Unreal 5.4で改善されています。Unreal Zen Serverへのクッキングにより、効率性の向上とデータの重複排除が実現し、クッキングの所要時間とデータ容量が削減されます。
さらに、Unreal 5.4ではマルチプロセスクッキングが導入され、Fortniteの開発チームの経験では最大2.5倍のビルド時間短縮が実現しました。
コンパイルワークフローの改善にも取り組み、Unreal Build Accelerator (UBA)という分散コンパイルソリューションが導入されています。これにより、複数マシンを活用してコンパイルプロセスを並列化し、ビルド時間をほぼ3倍に高速化できます。
エディター体験とワークフローの改善
Unreal 5.4では、エディター体験の改善とイテレーション時間の短縮にも重点が置かれています。新機能の「Virtual Assets」により、必要なデータのみを同期することで、同期時間とディスク容量の要件を削減できます。
「Unreal Zen Loader」の導入によりエディターの読み込みと初回起動時間が向上し、より滑らかな開発体験が実現します。また、ゲームプレイテスト時の「ヒッチフリー」動作の改善により、スムーズなイテレーションループが可能になりました。
デベロッパー効率を追跡するためのテレメトリーとアナリティクス
チームのパフォーマンスとデベロッパー効率を包括的に把握するため、Unreal 5.4ではStudio Telemetryとアナリティクスプロバイダーが導入されました。これらのツールにより、メトリクスの収集と可視化が可能となり、既存のアナリティクスシステムとの統合もできます。
これらのテレメトリーとアナリティクス機能を活用することで、開発チームはワークフローの洞察を得、ボトルネックを特定し、データに基づいた意思決定を行うことができます。
ターゲット環境でのイテレーションとデプロイの今後の改善
将来的には、ターゲット環境へのイテレーションとデプロイプロセスのさらなる改善が予定されています。1つの改善策として、クックされたアセットを直接ターゲットデバイスにストリーミングする機能が検討されています。これにより、長時間のコピー操作を不要にできます。
また、増分クッキングとZenスナップショットの活用によってビルドとデプロイのプロセスを高速化し、Unreal Build Acceleratorを使った遠隔地や分散環境でのコンパイルを実現することで、在宅勤務時の作業効率も向上させる取り組みが行われています。
まとめ
Unreal Engine 5.4では、デベロッパー効率を高めるための様々な機能が導入されています。これらの新技術を活用することで、チームはワークフローを効率化し、イテレーション時間を短縮し、高品質なゲーム体験を効率的に提供できるようになります。開発者は創造的な部分により注力でき、ゲーム開発業界におけるイノベーションを推進することができます。
主なポイント:
- Unreal 5.4は、データ同期の高速化、ビルド/クック/デプロイの所要時間短縮、ターゲット環境でのイテレーション効率向上に重点を置いている
- Derived Data Cache (DDC)とUnreal Zen Serverにより、効率的なデータ管理と共有が可能
- Unreal Cloud DDCにより、遠隔地や分散チームでも共有DDCにアクセスできる
- マルチプロセスクッキングとUnreal Build Accelerator (UBA)により、大幅なビルドとコンパイルの高速化を実現
- Virtual Assets、Unreal Zen Loader、「ヒッチフリー」動作の改善によりエディター体験が向上
- Studio TelemetryとUnreal Analytics Providerにより、チームのパフォーマンスとデベロッパー効率を把握できる
- 今後の改善には、クックされたアセットのストリーミング配信、増分クッキング、遠隔/分散コンパイルなどが予定されている